HOME『コーヒーミルとナイトキャップ』 気がつくと時計の針は2時半を回っていた どうやら私は仕事をしながら寝てしまったようだ 「ん〜、ちょっと寝すぎたな。八時までに原稿仕上げなきゃいけないのに」 しかし一向に頭は覚醒しない。このままではなにも始まらないのでコーヒーを入れるためにキッチンへ行くことにした キッチンでコーヒーを入れようとコーヒーメーカーを探していると後ろから声がした 「コーヒーメーカーならこの間捨てたよ。調子が悪かったからね」 「あ、編集長。ああ、ごめんなさい勝手にキッチン使ってますけど」 「別にいいよ。豆とコーヒーミルは右の棚の上。フィルターはそこの棚の二番目」 私は言われたとおりに道具を取り出す 「って、いうかこれ家にあるコーヒーミルと一緒だ。どうしてこんな使いづらいコーヒーミル買って来たんですか?」 普通コーヒーミルと言われれば上からコーヒー豆を入れて下の台で受け取るタイプを想像すると思うけど これは胡椒を挽くように筒から直接出てくるタイプだ。 置くタイプに比べて片手で支えてもう一方の手で挽くがゆえに力が入りづらい。 「ん〜?ああ、それ。この間拓弥の家で見たときにかっこよかったから持って帰った」 「ええっ!?じゃあこれ俺の!!?」 なんて無茶苦茶な人だ 「ってのは冗談。いいなと思ったから古道具屋巡って探してきた」 といってニッと笑う。まったく。どこまで本気なんだろ… ま、それがいい所なのかもしれないけど 「じゃ、私の分も淹れてね♪」 …やっぱり無茶苦茶だ。っていうか自分勝手 「いいですけど俺の入れるコーヒーは俺好みの味ですよ」 「別にいいよ。何度か飲んだけど別に不味くなかったし」 それは美味くもなかったということでは… なんてことを考えながらコーヒーを淹れる準備をする カチッ そんな音に気がついて顔を上げる。見ると編集長が煙草をふかしてた。私の視線に気がついたのか 「ん、なんだ?拓弥も吸うか?」 「いや、俺は禁煙してるし。ってかこんな時間に煙草吸うと体に悪いですよ」 「なにを言うかと思えば。体にいい煙草なんてないよ」 といって鼻先で笑う 「いや、寝た後は喉も乾燥してるから喉に悪いし」 「じゃ、そのコーヒーを飲んでから吸うことにしよう」 めずらしく人の忠告を聞いてくれた。ただ、煙草をテーブルの角でもみ消したのには閉口したが… そもそも、コーヒーと煙草を一緒にやるのは精神衛生上あまりよくない気も… まあ、彼女の部屋なんだから好きにすればいいし文句も言えない。 喋らずじっとしてれば綺麗な女性なんだけど…まあ、それも個性かと思えば諦めもつく 私は作業に没頭することにした。ヤカンで湯を沸かしてる間にコーヒー豆を挽く。 フィルターをセットしそこに挽いたコーヒーを入れる。 そこへヤカンで沸かしたお湯を入れる。 コーヒーを抽出してる間にミルクを鍋で温める。 後はコーヒーカップにコーヒーを注いで 「後は好みでミルクと砂糖をどうぞ」 「ん、ありがと。どっちももらうよ」 午前3時のコーヒーブレイク。こんな時間に人と一緒にコーヒーを飲んだことなんてなかったからなんだか新鮮だ 「うん、やっぱり不味くはないな」 「じゃあ、どんなのが好みなんです?」 「そうだな。贅沢を言えばコーヒー豆はもう少し湿気てないやつがいい」 「そりゃ編集長の管理が悪いからですよ」 まったく困った人だ。子どもみたいで無責任に見えて実際には誰よりも責任のある仕事をこなす。 いたって自然体で取り繕ってるようには見えないのにどこまで本気か掴めない。 「別に仕事中じゃないんだから編集長ってのはよしてよ。後もう少し対等な会話って出来ない?」 「えっ?別に俺は普通に話してると思うんですけどね…思うけどね」 どうやら私の癖のようだ 「ですます口調が結構作品中にも出てるからもうちょっとフランクな会話も出来るようになるといいよ」 「そうで…だね。以後…気をつけるよ」 「ま、ゆっくりでいいから」 そういってカップに口をつける 「拓弥には拓弥のよさがあるんだからそこを伸ばして、悪いところはゆっくり直していけばいいんだよ。 人気投票でも結構人気あるんだから自信持って。ね」 この人に言われるとこんなありがちな言葉も力を持つような気がしてくる。 ただ、さっきから彼女のいいようにされているようでなんだか面白くない。そこでちょっと仕返しをすることにした 「そんな、俺なんて。それよりもみんな永久依頼兎先生の作品を読みたがってるんじゃないですか?ねえ、鈴香さん」 「私は今休筆中なの。その代わり挿絵とかイラストとか描いてるじゃない」 そうやって期待させてるのが原因じゃないのかなと思いつつこれ以上言ったらへそを曲げそうなので言わないことにする。 実際もうすでにそっぽ向いてるし。まあ効果はあったみたいだ にゃ〜 二人でそんな会話をしていると襖を開けてネコが入ってきた。どうやらコーヒーの匂いが気になったようだ。 この猫。名前をネコという。ちょっとどうかと思うのだが飼い主が飼い主なので仕方がないような気もする。 ちなみに漢字で書くと寝狐となるらしい。尻尾が狐に似て大きいからだそうだがやっぱりどうかと思う。 まあ私の家の猫の名前も祐と蓮というおおよそ猫とは思えない名前なので人の事は言えないのだが 二人と一匹のコーヒーブレイク。鈴香さんはこれを飲んだらもう一眠りするそうだ。 はたしてコーヒーを飲んだ後に寝れるのかわからないがいい夢が見れるように秘蔵のブランデーを渡しておいた。 ナイトキャップにはおすすめの一品だ。さて、私ももうひと頑張りすることにしよう。 どうやら他の仲間も起き始めたらしい。とりあえず編集長が寝るらしいから静かにするようにと言っておいて執筆にとりかかる。 この調子ならみんな締め切りまでに間に合うかな?なんて考えながら話を考える。 キッチンの方から声が聞こえる。どうやら執筆そっちのけで酒盛りを始めたらしい。これは締め切りを確実に破るな… まあ、らしいといえばらしいけど。ね